FIFAランキングの不公正を暴く―欧州優遇の実態―

 FIFAランキングがどのような仕組み、どのような計算方法で算出されているのか、しっかりと理解している人はほとんどいないのではないだろうか?

「ランキングなんて意味のない数字遊びだ」と言えばそれまでだが、実際にはワールドカップやその予選、さらには大陸選手権などのポット分けにも利用されているものなので重要である。

FIFAランキングの大まかな概要についてはWikipediaなどを参照してほしいが、現行のものは2018年のワールドカップ後にそれまでの方式から一新されている。Wikiに則ってこの現行のFIFAランキングを「2018年方式」、それ以前のものを「2006年方式」と表記しよう。

2018年方式の大きな変更点は2つ。「Eloレーティング」が用いられるようになったことと、2006年方式には存在した「大陸間係数」が廃止されたことだ。Eloレーティングはチェスや将棋など2者間で対戦する競技において広く使われている指標で、数学的に強さを表すことができる。例えば2者のレート差が200だった場合、高いほうの勝率が約76%…というふうに。細かい計算方法まで覚える必要はないが、重要なのは「レートの奪い合い」をする指標である、ということだ。日本とブラジルが対戦し、日本のレートが1600、ブラジルが1800で、日本が勝ったとする。このとき日本が得たレートが+50なら、ブラジルは-50となる。つまり「試合の前後でレートの合計値は変わらない」、ということをちょっと頭に入れておいてほしい。

もう一つ、大陸間係数の廃止。この大陸間係数というのは各連盟に対して与えられた係数で、欧州0.99、南米1.00、アジア0.85…というふうになっていた。対戦相手が所属している地域の大陸間係数が高いほど勝った時に多くのポイントがもらえるので、欧州や南米のチームに勝てばたくさんランクがあがるし、逆にアジアやアフリカのチームに勝ってもあまりランクが上がらないということだ。

 

「欧州や南米のチームがアジアやアフリカより強いのは常識だし別にいいんじゃないの?」と思うかもしれないが、問題は代表戦は基本的に同じ大陸内での試合が大半、という点だ。アジアに所属している日本はアジアの国との対戦ばかりなので、どれだけ勝ってもあまりポイントが得られない。なので2018年ワールドカップではイランが第3ポットだったことを除けばアジアのチームはすべて第4ポットだった(繰り返しになるが2018年方式が採用されたのは2018ワールドカップの後から)。

 

 数学的に正確なEloレーティングが採用され、大陸間に不公平を生み出していた大陸間係数も廃止された2018年方式。結構な話じゃないですか、と。以前よりマシになったのは確かだ。ただそれでも完全に公平になったわけではない。いまだに「欧州優遇」の構造が残っている。それはなぜか?

まず2018年方式に移行するにあたって各チームの最初のポイントを決定する際に参照されたのは、それまでのランキングである。つまり2006年方式で算出された順位に基づいて新しいランキングも決められている。当時1位のドイツを1600としそこから4ずつ引いて2位1596、3位1592…というふうに。61位の日本は1372ポイントからのスタートだった。

本来Eloレーティングは試合数を重ねて行けば適正な値に収束していくので、「多様な相手と多くの試合を重ねていけるのであれば」スタート時点のレートはいくつでもいい。しかし開始時点で欧州や南米に不当に多く偏ったポイントをアジアやアフリカが取り返すためには、大陸間でそれだけ多くの試合数をこなす必要がある。前述したようにEloレーティングは「勝敗によってレートの合計値は変わらない」=「レートの奪い合い」という側面を持つため、同じ大陸のチーム同士で試合をしているだけではその大陸内のポイントは変動しないからだ。ところが現在欧州は代表ウィークにネーションズリーグを開催して欧州同士で試合をしているため、他大陸のチームと試合をする機会がほとんどない。日本代表も2018年から2022年W杯までの間に欧州のチームと試合ができたのはセルビア戦の1回のみだった。結果、W杯本番においてもアジアとアフリカのチームは開催国のカタールを除いて1つもポット2以上に入ることができなかった。「開始時点において欧州は不当に多くのレートを分配されておきながら、ネーションズリーグによってブロック経済的に他大陸との試合を拒み、W杯のポット分けまでレートの流出を防いだ」。これが第一の問題点だ。

 

 そしてもっと深刻なのが「W杯や大陸選手権の決勝トーナメントではどのような試合結果になってもレートが減らない」という点だ。これはEloレーティングの意義を根本から否定するとんでもない暴挙なのだが…文章だけで説明されてもピンとこないと思うので、表を使って確認してみよう。以下は2022ワールドカップ直前のFIFAランキングからのポイントの変動を示したものだ。1つ目の表はグループリーグ終了時点、2つ目は大会終了時点。

グループリーグ終了時点では欧州が多くのポイントを失い、対照的にアジアやアフリカがポイントを稼いでいることがわかるだろう。1チームあたりで見ると南米は-3.15、欧州-7.59、アジア+3.98、アフリカ+26.98、北中米-7.66。特にアフリカ勢の数値は目を見張るもので、今までどれだけ過小評価されていたかということだ。

それが大会終了時点ではどう変化しているか?GL終了時にマイナスだった南米と欧州が大幅なプラスに転じている。もう一度1チームあたりで計算し直すと南米+16.41、欧州+7.57、アフリカ+36.77。アジアと北中米は変動なし。モロッコが躍進したアフリカはともかくとして、結局アジアよりも南米や欧州のほうが多くのポイントを持ち帰る結果になってしまっている。

これは「決勝トーナメントではポイントが減らない」ことが原因だ。もし本来のEloレーティングと同じ計算方法なら絶対にこうはならない。くどいようだがEloレーティングは「レートの奪い合い」だから、欧州同士の対戦では欧州のポイントは変動しない。フランスvsイングランドで、フランスが勝って30ポイントを得ればイングランドは30ポイントを失うのだから。それが2018年方式ではフランスのみが30ポイントを得てイングランドは±0になってしまう。つまり同じ大陸同士の直接対決があれば確実にポイントを増やしてその大陸に持ち帰れるということだ。したがって2018年方式はW杯や大陸選手権のたびにポイントがインフレしていき、「大陸選手権を頻繁に開催している大陸」、「W杯で勝ち上がれるチームを複数有する大陸」が過度に有利になる仕組みなのだ。

この仕組みは欧州に非常に適したものだ。欧州はフランス、イングランド、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、オランダなど7~8カ国が非常に強いが、それより下のチームは他大陸のレベルと変わらない。しかしこれらのチームが勝ち上がって稼いだ大量のポイントが欧州に持ち帰られ、ネーションズリーグなどで分配された結果欧州全体がその恩恵を受けることになる。そうするとスイス、デンマークスウェーデンポーランドのようなチームが他大陸で同レベルの日本、韓国、メキシコ、セネガル、モロッコなどに比べてランキングで上位になる。そしてネーションズリーグの「ブロック経済」で引きこもっているため、他大陸にはそのポイントを取り返すチャンスも与えられない。4年後のポット分けではまたしても欧州勢が上位独占…というわけだ。

 

 実際に「2018年方式」と「本来のイロレーティング」で計算した場合、ポイントの増減にどれくらい差があるのか比較してみよう。

やはり顕著に差が出ているのは欧州勢。本来のEloレーティングではグループリーグ終了時点から多少増えた程度で、2018年方式のような大幅なプラスには転じていない。アジア勢は日本のドローで多少プラスになっているがオーストラリアと韓国が敗れたため全体ではポイントを失う形に。またクロアチアやモロッコも大きくポイントを減らしているが、これは2018年方式ではPK戦による勝利に対してもポイントを付与していたため。本来のイロレーティングではPK決着はあくまでドローとして扱うのでこの差が出ている。1チームあたりの平均では南米+6.49、欧州-4.68、アジア+0.14、アフリカ+20.70、北中米-13.15。アジアの取り分はほとんどなくなってしまったが、欧州がポイントを持ち帰る結果にはならなかった。

では2018年方式と本来のEloレーティングとで、大会後のランキングにはどのくらい違いが出るだろうか?

ロッコが11位から18位に大幅ダウン。19位日本代表の一つ上となっている。モロッコと日本とで大きな力の差があると感じた人は少ないだろうし、体感的にも近いのではないだろうか?優勝したアルゼンチンがフランスより下になっているのは、2つのPK戦でレーティングを伸ばせなかったためだ(公式記録ではアルゼンチンは4勝2分1敗、フランスは5勝1分1敗)。また2026年大会が4チーム12グループ方式で行われる場合、第1ポットに入るためには最低でも12位以内にランクインしている必要があるが、現在の日本から見て12位までの差は40ポイント程度に縮まっているため、2018年方式よりは現実的に狙えるレベルに近づいている。

 2006年方式でも問題であった「大陸選手権の開催頻度による格差」も解消されていないのもまずい。アジアカップは4年に1回しか開催されない一方で、コパアメリカアフリカネーションズカップは2年に1回開催され、そのたびに大きくポイントがインフレしていく。

これらの問題は「決勝トーナメントではポイントが減らない」という1点を廃止し本来のEloレーティングに戻すだけで簡単に解決できることだ。そしてネーションズリーグなどで引きこもるのはやめ、大陸間の試合を増やすこともランキングの精度向上のためにぜひとも取り組むべき。そのためにも2年に1回、または3年に1回のW杯開催案はぜひとも実現してほしいものだ…。