「Optaパワーランキング」でJリーグと世界のサッカーリーグのレベルを比較

 2023年1月より、Opta Analystにて「Optaパワーランキング」が公開されている。

The Best Football Teams in the World: Opta Power Rankings

Optaの説明によれば、183カ国の413のリーグにおよぶ、約13500チームの強さを0~100の数値で表しているそうだ。確認したかぎり日本ではJ1・J2はもちろん、関東サッカーリーグなどかなり下部リーグのチームも含まれている。ランキングは比較的頻繁に更新されているようだ(3/19現在の最終更新日は3/17)。もともと欧州各国のリーグに関しては各チームや各リーグのEloレーティングが算出され比較が行われていたが、これの登場によって欧州以外のチームとも比較することが可能になったというわけだ。

 肝心の算出方法だが、基本的にEloレーティングを用いてるとのこと。Eloレーティングについては以前の記事でもいくつか紹介しているので、興味のある人は参照されたし。

keitai-tenno.hatenablog.com

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Optaパワーランキングが通常のEloレーティングと異なるのは、「チームによっては異なる国や大陸のチームと試合をする機会がほとんどない」というサンプル不足の問題を解消するために、「ヒエラルキーシステム」が採用されている点だ。

1つのチームに対し「チームレーティング、リーグレーティング、国レーティング、大陸レーティング」という4つの階層にわたるレーティングを算出し、それぞれの合計によって最終的なレーティングが決定される。例えば横浜Fマリノスの場合はチーム=マリノス、リーグ=J1、国=日本、大陸=アジアとなる。各ヒエラルキーは大陸>国>リーグ>チームの序列になっており、チームレーティングは全ての試合で変動するが、それ以外の3つは「当該試合に関する最も序列高位のレーティング」のみ変動する。例えばマリノスvs全北現代(韓国)ではチームレーティングと国レーティングが変動し、リーグレーティングは変わらない。マリノスvsレアルマドリーではチームレーティングと大陸レーティングが変動し、国およびリーグレーティングは変動しない。かいつまんで言えば、このシステムのおかげでレーティングの循環がよりスピーディになる、ということだ。ここで得られた最終レーティングをもとに、世界で最も強いチームを100(現在はバイエルン)、最も弱いチームを0とし、すべてのチームを0~100のスケールにあてはめたものが「Optaパワーランキング」である。

 

 ではここから本題。さっそくJリーグと他国のリーグを比較していこう。まずは欧州5大リーグとの比較から。

さすがに5大リーグはレベルが高いプレミアリーグブンデスリーガは全てのチームがJ1最高値の川崎よりも上になっている。プレミアリーグに関しては、おそらくここからアーセナルとユナイテッドはレーティングをさらに上げていき、リバプールはもう少し落ちていくのではないかと予想している。ひとまず現時点でレーティング90超えのチームが5つあり、プレミアリーグのレベルの高さを表しているといえるだろう。ビッグ6以外では三笘の所属するブライトンもかなり高い数値を記録しており、他のリーグであればCL出場も狙えそうだ(ちなみにトッテナムはブライトンとほぼ重なって隠れている)。

ブンデスリーガがここまで高いのは少々意外であった。イメージとしてはラリーガより少し落ちセリエAと同等程度かと想像していたが、上位を除けばプレミアリーグとほぼ同等だ(ドルトムントライプツィヒと重なっている)。ここ数シーズンCLではほぼ全勝続きのバイエルンブンデスリーガ内では比較的勝ち点を落としていることから、欧州で稼いだレーティングを国内に配る形になっているのだろうか?いずれにせよ僅差であるので、これをもって「ブンデスはラリーガやセリエAよりレベルが高い」と断定できるほどではないが。

ラリーガ、セリエA、リーグ1の下位にはJ1水準のチームがちらほら表れてくる。特にリーグ1はレーティング80を下回るチームが中下位に多数あり、やはり他4つと比べるとややリーグレベルが劣る印象か。これだけ差があると、リーグ1からプレミアリーグに移籍した選手に苦戦するケースが多い(またはその逆)のも不思議ではないだろう。しかしナポリがあのバルセロナレアルマドリーより上位にいるというのは、数年前と比較すると隔世の感がある…。

 次は日本人選手が多く移籍している欧州中堅リーグと比較してみよう。森保の「リーグレベル発言」は大きな話題となったが、このランキングを見る限りその指摘はあながち間違いでもなさそうだ。セルティック自体は他のリーグでも優勝争いができそうだが、2強とそれ以外の格差がすさまじい。4位ハイバーニアンですらJ1下位圏で、それより下のチームはJ2上位から中位程度に過ぎない水準だ。ちなみに「2強のプレミアリーグ編入」議論はしばしば持ち上がるが、仮に編入したとして現在のレーティングで比較するとセルティックは22チーム中12位、レンジャーズは17位となる。

J1と2.ブンデスリーガ(ドイツ2部)はほぼ同等レベルにあるようだ。2部リーグであるがゆえに飛びぬけた強さの上位クラブが存在しないという点もJ1と共通している。オーストリアブンデスリーガも圧倒的に強いザルツブルクを除けばJ1に近い。仮にザルツブルクがJ1に参入して1シーズン戦ったとしたら、やはり圧倒的な勝ち点で無双するということだろう。スイススーパーリーグは全体的にJ1よりも少し高めか。

ベルギー、オランダはともにレーティング80以上のチームを5つ抱えており、やはりこの中では最もレベルが高い。オランダは上位チームが特に強く、ベルギーは上位~中位が比較的高水準にまとまっているのが特徴と言えそうだ。ただこれらのいずれのリーグも下位チームはJ1中位~下位レベルに過ぎないので、そういうチームに移籍した日本人選手の試合を観て「(J1上位と比べて)レベルが低い」という感想を持ったとしてもおかしくはない。

 欧州1部リーグでJ1とレベルが近いリーグはどこか。欧州のリーグは全般的に上位と下位の差が激しく、上位がJ1上位と同等レベルだと下位はJ2・J3レベルということが多いため、「最下位チームのレーティングが70前後(横浜FCは68.6)」のリーグを探してみた。

ロシアプレミアリーグは一般的に5大リーグに次ぐ2番手グループの一角とみなされることが多く、戦争勃発後も数多くの外国人選手がプレーしている。下位の数チームが若干低めではあるが、16チーム中12チームはレーティング74(J1の中上位に相当)を上回っており、ゼニトやスパルタクといった強豪はJ1首位の川崎よりもはるかに上であることなどを考慮しても、やはりJ1より一枚上のレベルと見たほうがよいだろう。トルコスュペルリグはロシアを全体的に少し低くしたようなレート分布であり、J1とロシアの中間くらいだろうか。フェネルバフチェガラタサライの2チームを除けばJ1とほぼ同等になる。

北欧3リーグ(スウェーデン…アルスヴェンスカン、ノルウェー…エリテセリエン、デンマークスーペルリーガ)もチェックしておこう。まずデンマークはJ1より少し高めになっていることがわかる。デンマークとチーム数、レベル的に近いのはスイススーパーリーグあたりか。比較的J1に近いのがスウェーデンで、欧州のリーグとしては上位と下位の差も小さい。ノルウェーも似たようなレベルだが、こちらは上位チームの強さが目立つ。北欧ではないがクロアチアリーグ(プルヴァHNL)とポーランドリーグ(エクストラクラサ)もノルウェーと同じような分布だ。

ここに載っていないリーグではギリシャウクライナセルビアなどは上位チームはJ1上位と同等以上のレーティングを誇るが、中位以下がJ2レベルという構造であった。

 欧州以外のリーグと比べてみるとどうだろうか?北中米、南米、アフリカそれぞれのトップリーグと並べて検証してみた。アメリカのMLSはチーム数が29と多いが、上から下までの全体的なレベルで言えばJ1とよく似ている。メキシコのリーガMXはそれよりもやや高水準で、先ほどの図と比べればベルギーリーグに近い。おそらく欧州以外では世界最強のリーグだろう。当初、その座はブラジレイロセリエA(ブラジル1部)のものかと予想していたのだが、こちらはJ1とあまり変わらないという意外な結果に。ブラジルは自国選手の質は世界ナンバーワンだとしても、トップ選手の大半が欧州でプレーし、それに次ぐレベルの選手もJリーグを含む世界中の様々なリーグに流出している。かたやメキシコ人は国外でプレーしている選手が比較的少なく、リーガMX中南米リーグでトップの年俸や市場規模を誇ることから周辺諸国の代表レベルの選手も数多く集まっており、外国人選手の質は間違いなくブラジルよりも上だろう。そうした差がこの結果につながっているのかもしれない。

アルゼンチンのプリメーラ・ディビシオンは28チームという規模の大きさ、そして各チームのレーティング的にもMLSと似ている。アフリカ代表のモロッコリーグ・ボトラもJ1と同水準。ちなみに図には含めなかったが、エジプトプレミアリーグもモロッコと同程度か少し下、というくらいのレベルであった。メキシコが少し高い以外はどのリーグも同じようなレベルであり、J1は「欧州以外では世界トップレベルのリーグの一つ」と言って良いだろう。

 こちらはAFC上位の7つのリーグを比較した図だ。パっと見た印象ではJ1、Kリーグ、サウジプロリーグがアジアの「3大リーグ」、それに続くのがカタールスターズリーグUAEプロリーグ、イランのペルシアンガルフリーグ、そしてオーストラリアのAリーグとなり、ここまでが「7大リーグ」という感じだろうか。レーティングが74以上のチーム数はJ1が6、Kリーグ3、サウジ4、カタール2、UAE1、イラン3、Aリーグ1となり、J1は中位層のレベルが高い。上位チームの強さでは近年ACLでも結果を残しているサウジ勢が抜けている。推測に過ぎないが、おそらく2020-2021の全盛期の川崎ならば現在のアルヒラルアルイテハドくらいのレーティングはあったのではないだろうか。

Kリーグは全体的にはJ1と似た数値だが、12チーム中9チームは72未満であり、スコットランドほどではないにせよ蔚山&全北の「2強構造」に近い。カタールのアルドゥハイルやアルサッド、さらにUAEの上位チームはTransfermarktによる平均市場価値ではJ1上位クラブを大きく上回っているが、レーティングではJ1中位レベルに過ぎないようだ。Aリーグサラリーキャップ制度を導入していることもあり、上位と下位の差は最も小さい。数値上はセルティック&レンジャーズを除いたスコティッシュプレミアシップとよく似ているので、セルティックの日本人選手たちは普段のリーグ戦ではAリーグレベルの相手と対戦している、とも考えられる。

※表の作成時にチェコリーグが抜けており、現在(2023/3/23)のレーティングは平均値74.5、中央値73.5であった。

 世界の主要リーグ1部+5大リーグ2部のレーティングの平均値と中央値を一覧にまとめた。わかりやすいようにリーグ名ではなく国名で表記している。Jリーグは全体26位で、欧州1部ではイスラエルルーマニアが最も近い。キプロスイスラエルがブラジルより上になっているが、一般的なサッカーファンの感覚からすればおそらく納得しがたいだろう。「そういう偏見とのズレを確認できるのがレーティングの醍醐味」と言えばそれまでだが…。ブラジルリーグは20チームで構成され、キプロスイスラエルはともに14チームという規模の違いはある。スイスが高い平均値を記録しているのも、10チームというチーム数の少なさにより個々のチームの質を確保していることが理由の一つだろう。そもそもレーティング上で1や2程度の差はすぐ入れ替わり得るので、厳密にどちらが上か下かと断言できるほどの差ではない。「大体同じくらいのレベル」と考えておけばいいのだが、それにしても意外な結果ではある。

 散布図にまとめて確認してみよう。やはり5大リーグが飛びぬけており、それ以外のリーグは団子状態で密集している(スイスも高めではあるが規模の点で5大リーグに劣る)。例えばJ1とフランスリーグ1のレーティング差は10近く離れているが、それより下のリーグとはほぼ±5以内の差に収まる。これらの点から、「5大リーグがずば抜けてレベルが高く、それ以外の主要リーグはJ1とあまり差がない」というのがリーグレベルに関する結論だ。オランダやポルトガルオーストリア、ベルギーといったリーグに移籍することの意義は、「Jリーグよりレベルの高いリーグでプレーすることで成長する」というよりは「Jリーグとは『特徴の異なる』リーグでのプレーを通じて成長する」こと、そしてなにより欧州の市場に乗ることで将来的な5大リーグへの移籍を実現させやすくする、ということと言えよう。