「埼玉は東京のベッドタウン」は本当か?通勤・通学先を徹底検証

 「埼玉は都内に住めない人間が仕方なく住むところ」などと揶揄されることもあるが、「埼玉」と言ってもその実態は地域ごとに大きく異なる。そこで令和2年国勢調査のデータから、各市町村ごとに通勤・通学先の上位5位までを表にまとめて検証してみた。東京特別区部(=23区)はすべてまとめて「東京23区」としている。

さいたま市

 さいたま市全体では23区への通勤通学率が約25%だが、旧大宮市地域は低めに、市南部に相当する旧浦和市地域では高めになっており、特に埼京線が通る浦和区、南区は30%を超えている。逆に旧大宮市地域ではいずれの区もさいたま市内への通勤通学率が50%を超えているが、旧浦和市地域では桜区のみとなっている。「さいたま市内で生活する大宮地域」と「23区への依存度が高い浦和地域」という対比が目立つ結果となった。また岩槻区は23区への通勤通学率が他と比べてかなり低めで、春日部や越谷など県東部地域との結びつきが深いようだ。

 

南部・南西部地域

 東京都に隣接する地域とあって、県内でも23区への通勤通学率が最も高い。蕨・和光・朝霞・志木の4つの市で23区が地元市内を上回って1位となっており、特に和光はほぼ半数に迫るほど。典型的な「埼玉都民」と言える。富士見、ふじみ野、三芳では川越への通勤通学率も高くなっており、30万都市・川越の求心力の高さをうかがわせる。

 

県央地域

 おもにJR高崎線の沿線地域で、さいたま市ベッドタウンとしての性格を持つ。さいたま市と23区への通勤通学率が概ね拮抗しており、さいたま市が23区を上回っているのは県内でも上尾と伊奈町の2市町のみである(さいたま市自身は除く)。興味深いのは相対的に北部ほど23区優位でさいたま市との差が大きく、南下するにつれて差が縮み上尾でついに逆転することだ。上尾駅から大宮駅までは約10分ほどだが、「都市としての求心力」で勝る23区に対し、「距離面でのアドバンテージ」を持つさいたま市が追い付き逆転できるのがそのラインということだろうか。

 

東部地域

 基本的に南側ほど23区通勤通学率が高くなっているが、東京方面へのアクセスが悪い松伏・吉川では低めの数字となっている。東京だけでなく千葉との県境の地域でもあるため、春日部の5位に野田がランクインしているほか、松戸・柏・流山なども複数の市町でTOP10圏内に食い込んでいる。

 

西部地域

  西武池袋線新宿線の沿線地域。所沢より先の4市の23区通勤通学率は10%前後と低めであり、東京通勤圏としては西端と言える。また大宮方面へのアクセスが悪いこともあり、さいたま市への通勤通学率はいずれの市でも1%前後と、県庁所在地であるにも関わらずかなり低めになっている。

 

川越・東松山地域

 地図上では上尾などよりもこちらのほうが県央部に相当する(埼玉の東西南北の呼称は秩父地域を除いたものとして考えるとわかりやすい)。大半の市町で23区への通勤通学率が10%を下回っており、川越・東松山の2市がそれぞれの地域の中心都市的な性格を持つ(ただし川越自体は東京のベッドタウンとして一定水準の通勤通学者を有する)。ちなみに鳩山町の地元への通勤通学率25.9%という数字は県内の自治体では最も低い。

 

利根地域

 おもにJR宇都宮線東武伊勢崎線の沿線地域。北関東3県と接するため、五霞町古河市館林市なども各市町のトップ10に顔を覗かせている。やはり北部ほど23区通勤通学率は低く、加須・羽生では3位以下にとどまっている。

 

北部・本庄地域

 県央地域と同じくJR高崎線の沿線だが、ここまで来ると23区通勤通学率はかなり低くなっている。本庄地域ではTOP5から23区が消え、代わりに群馬の自治体が複数ランクインするほど群馬との結びつきが強い。また熊谷、深谷、本庄の3市で地元への通勤通学率が50%を上回っているが、同様の条件を満たすのは県内ではほかにさいたま市秩父市小鹿野町のみである。特に熊谷は周辺市町からの通勤通学率も高く、県北部における中心都市と言える。

 

秩父地域

 東京方面とは西武秩父線、北部方面とは秩父鉄道でつながる。とはいえ他の地域への通勤通学者は少なく、長瀞町以外の4市町は7割以上が地域内へ通っている。秩父市の地元通勤通学率は70.4%と県内の自治体でダントツナンバーワンであり、周辺自治体からも20~30%が秩父市へ通うほど求心力が高い。独自の生活圏を持ったエリアである。

 

 以上の結果をもとに、各市町村からの「地元を除いた通勤通学先の1位」を表すと上図のようになる。ピンク色の地域は1位が23区であることを意味している。逆に緑色の地域は1位が埼玉県内の自治体で、矢印の先がその通勤通学先である。濃い緑色の市は地元への通勤通学率が50%を超えており、かつ2位以下がすべて10%未満=地域の中心都市であることを表している。秩父・本庄・熊谷の3市が周辺市町を引き付けて通勤通学圏を形成している以外は、全体的に「北から南へ」の移動が行われており、東部および南部の大半は東京通勤圏となっていることがわかる。

 こちらは埼玉県内を通過する鉄道路線図と、23区への通勤通学率を表す色の濃淡とを重ね合わせたものだ。都内の主要駅から埼玉方面に向かって放射線状に各路線が伸びているのがわかる。23区通勤通学率が20%を超えている地域は南東部のわずかな範囲だけであるように見えるが、当該エリアに約390万人が居住しており、県内人口の53%ほどに相当する。また、埼玉県全体での通勤通学者総数も約390万人と偶然にも似たような数字であり、そのうち23区通勤通学者は約81万人。つまり県全体での23区通勤通学率は約21%となる。なお「23区以外の東京」への通勤通学者数はその10分の1の約8万人であった。「東京のベッドタウン」と聞くと大半の人が東京に通勤・通学しているようなイメージを抱くが、実際には県全体では東京に通ってる人は2割程度にすぎないのだ。

 これらの分析結果から埼玉県を通勤通学圏に基づいてエリア分けするとこのようになる。「都市圏」については後日別記事で紹介する予定だが、オレンジおよび黄色のエリアは「東京都市圏」に含まれる(黄色、薄黄色は2次郊外・3次郊外であることを意味する)。埼玉県内に存在する都市圏は東京都市圏のほかに秩父都市圏、本庄都市圏、毛呂山都市圏、日高都市圏の計5つだ。したがってオレンジのエリアは東京都市圏以外に独自の都市圏を有するわけではないが、その中でも周辺市町への一定の求心力を有し生活圏を形成しているエリアを「サブ圏」としてまとめた。熊谷、東松山は本来東京都市圏に含まれるが、23区への通勤率は10%を下回っており、かつ周辺市町への高い求心力も有しているため、サブ圏よりは独自性が高いとみなし「独立圏」と表現している。小川町・東秩父村はいずれの都市圏にも含まれないが同様に独立圏とした。