2024アジアカップ優勝候補戦力分析(日本、韓国、イラン、オーストラリア)

 まずアジアカップの優勝候補はどこか。チームの強さを客観的に測る指標としてはEloレーティングがある。(過去記事参照)

keitai-tenno.hatenablog.com

アジアカップ出場国のEloレーティングを上から並べると日本1909、イラン1829、韓国1803、オーストラリア1787となっており、これより下とは100以上差がある。各社のオッズを見てもこの4チームに開催国のカタールを加えた5チームまでが現実的な優勝候補とみなされており、実力的にはアジアの中で抜きんでていると言えるだろう。

 というわけでこの4チームの戦力をSofascoreを中心に評価し分析していく。Sofascoreについても以前の記事で解説しているが、スタメンであれば6.8~6.9程度で平均的で、7.0を超えていれば優秀と見てよい。もちろんそのリーグ内における評価であり、他のリーグの選手と比較する場合にはリーグレベルを考慮する必要がある。

 

keitai-tenno.hatenablog.com

日本代表についてはみんな良く知っているのでこの記事であらためて解説するまでもないが、評価の基準として他国の選手と比較しやすくするために軽く見ておこう。

 

①日本(Eloレーティング1909)

 久保、伊東、南野の3人が5大リーグで高い採点を記録している。特に久保はアジアカップのためにチームを離脱した時点でラリーガ全体4位にランクインしており、キーパス(1.9)、決定機創出(8)、ドリブル成功(2.0)などでもリーグ上位に入っている。正真正銘ラリーガ屈指の選手であることは間違いない。今季からクラブでもLBを務めている伊藤洋輝は採点7.08とCB時代に劣らない好成績を残しており、好調シュトゥットガルトに乗じるかのように躍動している。遠藤はブンデスリーガ時代は毎年安定して7.00前後だったが、リバプールでは序盤にベンチからの途中出場が続いたこともあり採点は伸びていない。

 5大リーグ以外では菅原が7.48でエールディヴィジ全体16位に位置している他、ヘントの渡辺剛がベルギーで7.17の高採点を記録し、コルトレイクでの昨季に続いてハイパフォーマンスを見せている。クラブでの活躍度は町田や谷口より上なのになかなか代表に呼ばれないという状態が続いたが、なんとかアジアカップメンバー入りに成功した。その町田は昨季はサンジロワーズでほとんど出場機会を得られなかったが、今季はスタメンの座を確保し採点も大きく改善されている。セルティックの旗手は今シーズン負傷により出場試合数は少なく大会直前にようやく復帰した状態だが、昨季は7.23で得点王とMVPを獲得した古橋の7.11よりも高かった。

 非欧州組では4人のフィールドプレイヤーが選ばれているが、興味深いことにその誰もSofascore 7.00を超えていない。多くの代表チームはよりレベルの高い欧州リーグでプレーしている選手の採点は低く、自国リーグからは採点の高い選手が選ばれているのだが…。例えば橋岡はJリーグよりもレベルの高いベルギーリーグで7.15を記録しているが、森保が選んだのはセレッソで6.89の毎熊だった。Jリーグで採点が高いのは満田誠(7.52)、大迫勇也(7.46)、脇坂泰斗(7.30)、朴一圭(7.29)、初瀬亮(7.19)といったあたりだが、これらの顔ぶれはこれまでの代表選考にかすりもしていない。また、細谷の6.77という採点は14Gも決めている選手としては異例なほどに低く、本当にアジアカップに臨む臨む日本代表に相応しい人選であったのか疑わしい。

 

②韓国(Eloレーティング1803)

 欧州組13人、アジア組13人という半々の構成。前線はほぼ欧州組、逆に中盤より後ろはほぼアジア組となっている。目につくのはやはりプレミアリーグで絶好調のソン・フンミン、そして昨シーズンのナポリ時代に続き今季もバイエルンで堅実なパフォーマンスを見せるキム・ミンジェ。昨季ラリーガのマジョルカで7.13の高採点を記録したイ・ガンインだが、PSGでもスタメンの座を確保し確かな実力があることを証明している。ビッグクラブで主力を務めているこの3人が韓国代表では頭一つ、二つ抜けた実力を持っており、チームの骨格と見ていいだろう。

 そこに加えて今季はファン・フィチャンもプレミアリーグで10G3Aと素晴らしい成績を残している。得点もさることながら、直近3年のドリブル成功数を比較してみると21/22…1.1(48%)、22/23…0.5(50%)、23/24…1.6(55%)と、オンザボールでも改善が見られる。ただしその得点だが、今季プレミアリーグで10点以上取った選手の中でフィチャンの枠内シュート数は11本と最も少なく、xG6.0、xGOT6.2に過ぎないことからもやや運に恵まれている感は否めない。韓国代表では左右のサイドに入ることが多いが、純粋なウィングとしての脅威度では三笘や伊東には及ばないだろう。

 欧州5大リーグで活躍する彼ら4人が韓国の中心選手とみなされることが多いが、中堅リーグで活躍する選手たちも見逃せない。まずセルビアツルヴェナ・ズヴェズダでプレーするファン・インボム。KリーグからMLS→ロシア→ギリシャセルビアというおもしろい経歴をたどっているが、韓国代表では「中盤の心臓」として欠かせない存在になっている。欧州4シーズンの全てでSofascore7.00以上を記録しており、今季は7.49でリーグ全体5位。CLのマンチェスター・シティとの試合でもゴール、アシストを記録したため印象に残っている人も多いだろう。

 ヘントで渡辺とチームメイトの24歳ホン・ヒョンソクは現在の韓国代表でイ・ガンインに次いで最も有望な選手だ。最近クラブや韓国代表ではトップ下や左サイドに入ることが多いが、2列目から3列目まで中盤の全てのポジションをこなすことができる。昨季7.16、今季は7.32と、5大リーグに次ぐレベルであるベルギーリーグでトップクラスの採点を残しており、これはベルギー時代の伊東純也にも劣らない数字だ。日本やアジア各国にとっては幸運なことと言うべきか、クリンスマンの韓国代表ではベンチの立場に留まっており、スタメンで出てくることは少ない。

 そしてストライカーのチョ・ギュソン。188cmの長身FWで空中戦に非常に強く、大柄な選手が多いデンマークリーグでも空中戦勝利4.2(59%)を記録している。今季はミッティランで16試合8G、Kリーグ時代の全北現代でも43試合22Gと得点力の高さも見せており、フンミン、フィチャンと並んで韓国の得点源と言っていい。韓国代表でポジション争いをしていたファン・ウィジョがプライベートな問題でアジアカップメンバーを外れたことにより、今大会ではほぼ全試合でスタメンを務めるものと予想される。

 

予想フォーメーション

4-4-2

 負傷がない限りほぼ間違いなくスタメンで出てくるのはギュソン、フンミン、フィチャン、ガンイン、インボム、ミンジェ、スンギュの7人。4-4-2のときはガンインが右サイドに入ることが多く、中盤のインボムの相方はパク・ヨンウが務める可能性が高い。DFラインは「圧倒的主力のミンジェと他3人」という毛色が強く、一応はLBイ・キジェ、CBチョン・スンヒョン、RBソル・ヨンウがレギュラー格と言えるがRBキム・テファンやCBキム・ヨングォン、LBキム・ジンスが出場したとしても戦力的には遜色ない。

 

4-3-3

 マインツのイ・ジェソンもクリンスマンに重用されており、スタメンで起用される可能性は十分ある。特に格下との対戦では上図のようにインボムを守備的なMFとして配置し、ガンインとジェソンの二人を4-3-3または4-1-4-1の攻撃的MFとして同時にプレーさせることも考えられる。あるいは韓国代表では一度も試されていないが、フンミンは今季トッテナムではCFとしてプレーすることが多いため、フンミンをワントップに置き左にフィチャン、右にガンイン、トップ下にジェソン、ダブルボランチにインボムとパク・ヨンウ…という布陣も見られるかもしれない。

 

③イラン(Eloレーティング1829)

 5大リーグ所属は2人だけだが欧州中堅リーガーが多く総勢では欧州組12人と、アジアでは日本、韓国、オーストラリアに次いで高い欧州組比率を誇る。最多の12人が選ばれているイランリーグにはSofascoreの採点が導入されていないため、パフォーマンスを評価するのはやや難しい。

 イランのトップタレントは何と言ってもタレミだ。27歳で初の欧州挑戦となるポルトガルのリオ・アヴェに移籍すると初年度から18Gで得点王に輝き、翌年強豪ポルトに移籍。以後3シーズンで16G11A、20G12A、22G7Aを記録し、Sofascoreでも7.29、7.47、7.38とリーグ最高クラスの採点を修めている。今季はここまで15試合で3G1A、7.07と例年に比べるとやや低調であり、1試合あたりのシュート本数も昨季の2.9から1.2へと半分以下に激減してしまっている。年齢的にも今年32歳になることもあり、下降傾向にあると言えるかもしれない。

 イラン代表でタレミの77試合43Gを上回る75試合49Gを決めているのがアズムンだ。前回大会でも2位タイとなる4Gを記録し、イラン代表を準決勝まで牽引する原動力となった。クラブではロシア時代に2年連続で得点王を獲得しレバークーゼンへと移籍したが、昨季はリーグ戦出場23試中先発は8試合のみ、今季はローマで13試合出場するも先発は0と、近年は出場機会に恵まれず苦戦している。「イランの顔」とも呼べるタレミ&アズムンの2トップがどちらもクラブで低調なのは悩みの種だろう。

 この2人の他にもFW陣には実績のある実力者たちが揃う。ジャハンバフシュはフェイエノールト時代の17/18シーズンに21G12A、Sofascore 8.15と無双級の成績を残し得点王に輝いた。その後ブライトンに移籍するも出場機会を得られず3年で退団、21/22シーズンからは再びフェイエノールトに復帰している。33歳のベテランFWアンサリファルドギリシャオリンピアコスでプレーしていた17/18シーズンに17G、AEKアテネでの20/21シーズンには13Gを記録した。ゴリザデはレフティーの右WGであり、ベルギーのシャルルロワ時代の20/21シーズンに8G6A、21/22シーズンに8G4Aと好パフォーマンスを見せた経験を持つ。

 次はDF陣に目を向けてみよう。ハジサフィ、モハマディーの2人はともにAEKアテネ所属であり、どちらもLBを本職としているため、イラン代表同士がギリシャの同じクラブでポジション争いをするというおもしろい構図になっている。昨季はハジサフィがレギュラーの座を勝ち取り、28先発して採点7.18と好成績を残した一方でモハマディーは8先発の6.87に留まったが、今季はハジサフィ6先発、モハマディー9先発と拮抗している。ただイラン代表ではハジサフィが中盤に入りモハマディーと同時起用されることもある。

 RBではクロアチアの名門ディナモ・ザグレブでスタメンの座を勝ち取っているモハラミとイランの強豪セパハンのレザイアンが出場機会を分け合っており、どちらかと言えばレザイアンのほうがファーストチョイスだ。レザイアンは若い頃はウィングをしていたこともあり攻撃的なサイドバックで、特にセパハンに移籍した昨季から磨きがかかり29試合7G8A、今季は13試合で4G3A、ACLでも5試合4G1A。33歳にして円熟期を迎えている。

 CBではケイロス監督時代にはプーラリガンジという選手が重用されていたがW杯後しばらくは招集されず、10月の代表戦で復帰するもそのカタール戦で前十字靭帯を負傷し、アジアカップのメンバーリストから外れた。最近はハリルザデーとカナーニのCBコンビが起用されることが多く、ホセイニが3番手という扱いになっている。そのホセイニはトルコのカイセリスポルでプレーしており、Sofascoreは昨季7.00、今季は7.12と堅実なパフォーマンスを見せている。このレベルの選手がスタメンではないというのもイランの守備陣のレベルの高さを表す一つの指標と言えるだろう。

 

予想フォーメーション

4-1-3-2

 タレミ、アズムン、ゴドス、エザトラヒ、ハリルザデー、ベイランバンドの6人はほとんどの試合で先発しており、左サイドはロシアのロストフでプレーするモヘビが出場機会を増やしている。LBにモハマディーとハジサフィのどちらが出てくるかはほぼ半々で、CBはカナーニではなくホセイニもあり得る。強豪相手の試合ではゴドスの代わりに中盤でチェシミを起用し、より守備的な4-4-2を採用するかもしれない。攻撃陣に負傷者などが生じた場合はトラビが控えの1番手として出番を与えられるものと思われる。

 

④オーストラリア(Eloレーティング1787)

 欧州組19人は日本の20人に次いで参加国中2番目に多いが5大リーグ1部所属は0人であり、9人はイングランドやドイツの下部リーグ所属である。リーグとしてはスコットランドが6人で最も多く、イングランド2部と3部を合わせて6人、ドイツ2部が3人と続く。優勝候補のライバルである日本、韓国、イランと比較すると欧州で活躍するビッグネームは少なく、せいぜいGKライアンとCBソウターくらいだろうか。そのライアンは菅原と同じAZアルクマールで堅調なパフォーマンスを見せているが、ソウターは今季チャンピオンシップに降格したレスターで出場機会を得られていない。これまでオーストラリア代表の常連だったレッキーやマビル、マクラーレンは負傷の影響でリストから外れ、今季チャンピオンシップのイプスウィッチでSofasocore 7.12と良いプレーを見せているルオンゴは10月の代表戦で2019年以来4年ぶりとなる代表復帰を果たしたが、結局最終メンバーには残らなかった。

 全体的に小粒な印象は否めないがチームとしては比較的好調で、Eloレーティング1787は過去10年間で最高の数値だ。W杯後の対戦成績を見てもエクアドルに1勝1敗、メキシコと2-2の引き分け、アルゼンチンとイングランドには敗れるもシュート本数はそれぞれ7-11、14-9と内容的には拮抗…と強豪相手にも一定の成果を見せている。

 個々のメンバーを見ていくと、ドイツ2部のザンクトパウリで7.39の高採点を残しているアーヴァインの活躍が目立つ。昨シーズンも7.10と好成績で、これは同じドイツ2部でプレーしている田中碧(直近3シーズンで6.87、6.93、6.99)よりも良い数字だ。チャンピオンシップで堅実なパフォーマンスを見せているバージェス、スコットランドで採点7.24のロールズのCB2人も見過ごせない。かつてAリーグで得点王に輝いたフォルナローリは36歳にして10試合13Gと再び得点を量産している。代表ではデュークがCFのスタメンの地位を築いているため、途中出場やローテーションでの出番になるだろう。ライアンは実績、今季のパフォーマンスの両面からおそらく今大会ベストのGKと言える。

 

予想フォーメーション

4-3-3

 クラブでは出場機会のないソウターだが代表では不動のスタメンCBであり、相方が誰になるかというほうが焦点になる。基本的にはロールズかバージェスのどちらかだが、バージェスをCBに、ロールズをLBに入れて2人同時に起用するパターンも何度か見せている。LBではボスが選ばれる可能性もあり、RBではミラーとアトキンスが互角のポジション争いを繰り広げているため、DF陣で確実に控えと言えるのはデンとジョーンズのみ。中盤3枚はバッカス、アーヴァイン、メットカーフがファーストチョイスだが、バッカスの代わりにオニールが入る試合もありそうだ。

 

⑤その他

 優勝候補と呼べるのは日本を含めてこれらの4チームだが、ダークホースとなりそうなのがウズベキスタンだ。Eloレーティングは1645でアジアカップ出場国の中で5番目に高く、過去1年間の上昇幅は+72でUAEの+74に次いで2番目に大きい(ちなみに日本は+59で4位)。エースのショムロドフが負傷で出れなのは痛手だが、他にもRCランス所属の19歳CBクサノフ、ルビン・カザンのCBアシュルマトフ、ギリシャのパンセライコスのLWマシャリコフなど欧州組を数人擁し、特にCSKAモスクワの20歳AMFファイズラエフは13試合2G4A、Sofascore 7.29と一際活躍している。2年前のU-23アジアカップで日本がウズベキスタンに0-2で完敗した試合に出場していた選手でもあり、今大会で飛躍することになりそうだ。

 対照的に落ち目なのがサウジアラビアだ。W杯後の戦績は4勝2分5敗(主力選手が出場していないガルフカップは除く)だが勝った相手はパキスタン、ヨルダン、レバノン、香港とアジアの格下ばかりで、ベネズエラボリビア、韓国、ナイジェリア、マリなど同格以上の相手には1勝もできず。ヨルダン戦も勝ちさえしたもののシュート本数は7-17と押し込まれる展開だった。開催国がカタールなので地理的なアドバンテージはありそうだがEloレーティングも1585に過ぎず、優勝候補と見るのは難しいだろう。