「本当に決定力のある」選手は誰なのか?xGOTを使い検証する

 xGOTについては以前の記事でも紹介しているが、あらためて概要を説明しておこう。

keitai-tenno.hatenablog.com

xGOTとはxG(ゴール期待値)の改良指標である。xGはシュートスポット、シュートの種類、相手DFとの距離、パスの種類、角度、スピードなどから算出されており、いわば「シュートを打つ前」のチャンスとしての大きさを表したものである。xGOTはこれに加えてシュートコースを考慮に入れており、「シュートを打った後」のチャンスの大きさを表しているといえよう。xGでは同じようなシチュエーションからゴールになる確率を算出することはできるが、シュートを打った選手のシュート技術までは考慮できない。同じ状況から放たれたシュートであっても、ゴールの中央に転がっていくグラウンダーのシュートと、コーナー上方に飛んでいくシュートとでは後者のほうがゴールになる確率が高いのは明らかだ。毎年xGと比較して実際のゴール数はもっと多いという選手がいるが、そういう選手はxGOTで見るとさらに高い数値を記録しているケースが多い。xGで期待される得点チャンスよりも、その選手のシュート能力(xGOT)によって得点チャンスをさらに拡大させたということだ。つまりxGとxGOTを比較することで、その選手の「シュート決定力」が見えてくるのだ。

 ただしOptaのコラムによれば、xGOTについて以下のように捕捉されている。

There is an important caveat to using xGOT for attackers in this way though. Given that you receive an xGOT value of zero for blocked shots, the outcome of a shot can be heavily influenced by a defender’s intervention. A shot may be destined for the top corner, but the defender may block it and so we cannot isolate the outcome only to the shooter. While it still useful context to understand, shooting goals added is rather a measure of on-target execution than purely being indicative of a player’s finishing ability.

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要約すると「シュートをいいコースに蹴ったとしても相手のDFによってブロックされる可能性もあるので、xGOTは純粋なフィニッシュ能力を表すというよりは、いいコースにシュートを蹴る能力を表す指標である」ということだそうだ。なにはともあれ有用な指標であることには違いない。ひとまずこの記事ではこれを「決定力」と表現することにする。

 では記事のタイトルにあるとおり、実際に決定力のある選手は誰なのだろうか?まずは今シーズン欧州でプレーするおもな日本人選手たちについて見て行こう。

データは2023年3月6日現在のものであり、リーグ戦に限られる。「決定力」はxGOT/xGで算出しており、平均的な選手(=xG)を100%として、どれだけ得点期待値を増減させたかを意味している。「運の良さ」はシンプルに実際のゴール数からxGOTを減算しただけ。xGOTより実際のゴール数が少なければそれだけ優秀なGKによって阻まれたということであり、その逆もしかり。本人の能力とは関係のない要素なので「運の良さ」と表現している。

 この表では決定力が最も高いのは南野拓実で166.7%となっているが、今季480分しかプレーしておらずそもそもサンプル数(=シュート数)が少ないのであまり鵜呑みにはできない。とはいえ1シーズン足らずの現状ではどの選手に対しても同じことが言えるので、あくまで参考程度に理解してほしい。

今季前半戦にゴールを量産しブンデスリーガを湧かせた一人でもある鎌田大地だが、決定力は80%を下回っているという意外な結果に。さらにゴール数7に対してxGOTは4.2であるため、約3ゴールほど運よくラッキー(≒相手のGKが酷かった)で決まっているということになる。これはPK2本(どちらもxGOTは0.99)を含む数値であるため、PK以外での妥当なゴール数はわずか2ゴールということに。今までゴールを量産してきたわけでもない鎌田が、今季前半戦においてはシュート決定率が30%を上回りハーランドを抑えて欧州1位などという結果になっていたことを踏まえても、明らかに運に恵まれた「出来過ぎの前半戦」だったといえよう。そもそも1試合平均で1.1本しかシュートを打っていない鎌田があのペースを維持したままゴールを重ねていくことはほぼ不可能である。

同じく運が良いという点で、xGOTと実際のゴール数との差が最も大きいのが上田綺世だ。xGOT8.9、ゴールは13。その差は4.1もある。もともとシュートはうまい印象のある選手だが、xGOTでもなお測り切れない「決定力」の高さがあるのか、それとも単なるラッキーに過ぎないのだろうか?

スコティッシュプレミアシップで現在得点ランキング1位の古橋だが、xG14.6に対しxGOT16.5、決定力113.0%と高いシュート技術を見せている。なおxGOTではリーグトップではなく、こちらは得点ランク2位の17ゴールを決めているローレンス・シャンクランド(ハーツ)が17.2で首位に立っている。昨シーズンの古橋は12ゴールで得点ランク2位だったが、xGOTは13.9で1位であった。

ただ先述したように、わずか1シーズン足らずのデータではサンプル不足によるブレが大きく、その選手の実力を見抜けるとは言い難い。上の表は「能力」というよりはあくまで「今シーズンの内容」を見るものとして理解してほしい。例えば今季の鎌田大地が運に恵まれていたことはほぼ間違いないが、それのみをもって「鎌田大地は決定力の無い選手だ」という結論に結び付けられるわけではない、ということだ。

 ではもう少し期間を広げてサンプル数を増やしてみるとどうなるか?20/21、21/22、22/23の3シーズン分の累積成績をまとめたのが下の表だ。

過去3シーズンにわたってxGやxGOTのデータが手に入るリーグでプレーしていた選手のみが対象なので、残念ながら人数は少ない。南野は3シーズンの累計でもプレータイムが少なかったため外した。逆に古橋は2シーズン分だが、シュート数(=サンプル数)では他の選手に劣らないため表に含めている。その古橋は121.1%と、やはりストライカーらしく優秀な決定力を備えているようだ。今シーズンのみのデータでは90%を下回っていた堂安も106.3%まで上昇。鎌田のみは対象期間を通じて決定力が100%を下回っている結果となった。

こちらは世界的スター選手たちの同様のデータだ。シュート数が圧倒的に多い分データも収束しており、決定力が100%から大きくかけ離れている選手は少ない。その中で120%超えをマークしているメッシとソンフンミンのシュート精度はすさまじいと言えるだろう。ただそのメッシはどういうわけかゴール数がxGOTよりも10も少なく、運に見放されているようだ。

 …ところでこの「運の良さ」の項目、プラス側になっている選手が多すぎるように感じないだろうか?つまり「xGOTという指標そのものが、実際のゴール数よりも少な目に出ているのではないか?」という疑念だ。一部の選手を抜粋しただけなのでもちろん偶然の可能性もある。ということでプレミアリーグ全体の指標を用いて検証してみると…

ご覧のとおり。実際のゴール数とxGはほとんど同じだが、xGOTはおよそ50ゴールも少ない。おかげでほとんどのチームの決定力が100%未満になってしまっており、全体でも91.9%という数字だ。

だがxGOTが実際のゴール数より少ないこと自体は正常といえる。なぜならオウンゴールによって生まれた得点はxGやxGOTにカウントされないからだ。xG、xGOTが対象とするのはシュートのみであり、オウンゴールはシュートに含まれないのでそこから外れる。今季ここまでのプレミアリーグでは33得点がオウンゴールによって生まれているので、その分を除く実際のゴール数は643。xGOTはこの数字の97.4%に相当し、それほど大きな誤差ではなくなる。むしろ問題はオウンゴール分を減算していない実際の得点数とほぼ同じであるxGのほうなのだ。なぜこのような差が生じてしまうのかOptaにメールで問い合わせているのだが、残念ながら今のところ返信はない。

xGとxGOTのどちらの算出方法に問題があるにせよ、ひとまずこのままでは各チームの決定力がイマイチわかりにくい。そこで暫定的に全チームのxGOTを1.08倍し、実際の得点数とスケールを合わせて計算し直してみると

このようになる。フラムの決定力の高さ、そしてウルブズとエバートンのずば抜けた低さが目につくだろう。現在首位であるアーセナルの決定力が低めなのは少し意外だろうか。そのアーセナルと優勝争いをしているシティの2チームが飛びぬけて運の良さが高く出ているが、これも偶然なのか、運の良さでは割り切れない何かの理由があるのか…。プレミアリーグだけでなく他のリーグも検証してみれば何か発見があるかもしれない。また、GKが実際に喫した失点と、被xGOTとを比較することでそのGKのセービング能力を測定することもできるが、そちらについては需要があればまた別記事で検証してみようと思う。