最新指標「xGOT」で分析するワールドカップ2022グループリーグ

 xGOTとは何か?前提として知っておかなければならないのは「xG」だ。

xG=Expected Goals。日本語では「ゴール期待値」と訳されている。最近は日本での知名度も高まってきているので知っている人も多いだろう。

xGを簡単に説明すると、1本1本のシュートに対して「そのシュートがゴールになる確率はどれほどであったか」という期待値を示すものだ。これはシュートを打った位置、DFとの距離、パスのスピードや角度など様々な条件を考慮し、過去の膨大なデータから同じような状況で打たれたシュートと比較し算出されている。

単純にシュート本数を比較しただけでは、入る見込みの低いミドルシュートも至近距離からの大チャンスも同じように1本とカウントしてしまうため、実際にどれくらいのチャンスを生み出していたのか精確には分からない。

しかしxGであればそれぞれのシュートの価値を評価できるので、それらを積み重ねていけば1試合を通しての得点期待値や勝率、さらには勝ち点期待値なども求められるというわけだ。

 

 とはいえxGにも欠点はある。それは「選手のシュートのうまさ」までは考慮できない、という点だ。xGはあくまで平均的なシュート能力を想定しているので、シュートが上手ければxGよりも実際には多くのゴールが決まりやすくなるし、その逆もしかり。

そこで考案されたのが最新指標「xGOT」だ。Expected Goals on Target=枠内シュートのゴール期待値。これはxGにシュートコースまで考慮して期待値を算出し直している。

例えばPKの成功率は平均して79%なので、PKのxGは常に0.79で固定されている。しかし実際には厳しいコースに蹴ればGKに止められにくくなるし、逆に枠外に蹴ってしまえば絶対に入らない。つまりシュートを打った「シチュエーション」だけでなく、そのシュートが飛んで行った「コース」によっても期待値は変わる、という点まで考慮しているというわけだ。

 では実際にxGOTを使ってグループリーグを分析してみよう。以下は1節~3節の各試合のxGOTに基づいて勝率、勝ち点期待値を算出し一覧にまとめた表だ

まず日本がドイツを2-1で破った試合。この試合のxGOTは日本1.78-ドイツ2.83。xGは日本1.46-3.09ドイツなのでそれよりはもう少し拮抗した数字になっている。

浅野が決めた2点目はxGでは0.09に過ぎないシュートだったにも関わらずxGOTでは0.59と、0.50も期待値を上げている。いかにあれが難しいシュートだったかを物語っているといえよう。

いずれにせよこの試合ドイツが優勢であったことは指標からも明らかだ。日本の勝率は14.5%に過ぎず、勝てたことは極めて幸運だったと言える。

サウジアラビアがアルゼンチンを破った試合も最大のアップセットとして世界的に注目を集めたが、xGOTで見るこの試合のサウジアラビアの勝率はなんとわずか1.7%。本当に奇跡的な勝利だった。

 

 これらの指標に基づいて、グループリーグ3試合を通しての勝ち点期待値と実際の勝ち点を比較してみよう

まず3試合で勝ち点期待値が8を超えたチームは1つもなかった。ブラジルとフランスは2試合終了時点で6に近い期待値を稼いでいたが、すでに突破が決まってる3試合目でローテーションをしたことで数値を落とすことになった。

敗退したチームではエクアドルとドイツが期待値6を超えており非常に運が悪かったと言える。逆に日本は1位突破したチームの中で最も期待値が低く3.12。2位まで含めるとポーランドの2.75が最低だが、これにはGKシュチェスニーの奮闘が大きく寄与していることを後に解説しよう。

 

 xGOTでどんなことがわかるのか、もう少し掘り下げてみる。

まず一つには、xGと比較することでシュートを打った選手のシュート決定力を評価することができる。例えばA選手が30試合プレーした時点でのxGが10.5だったが、xGOTは13.0だったとする。この場合Aが得たシュートチャンスは「10.5点くらい決められるだろう」というものに過ぎなかったが、実際には「13点くらい決まるだろう」というシュートを打ったことになる。つまりAのシュート力によって2.5点分多くのチャンスを作り出したと評価できるのだ。チーム全体で見ても同じことで、とあるチームBが30試合で生み出したxGが40.0、xGOTは35.0だった場合、5点分損してることになる。チームBは全体的にシュートが下手で決定力がないと言えそうだ。

もう一つ分析できるのは「ゴールキーパーセービング能力」だ。日本-ドイツ戦でドイツのxGOT、つまり日本の被xGOTは2.83だが実際には1失点だった。ということは残りの1.83点は権田のセーブによって防がれたと考えられる。xGOTは枠内シュートに対してのみしか算出されないから、基本的にキーパーのセービング以外では阻む手段がないからだ。

以上2点を公式化すると次のように表せる。

①xGOT-xG=シュート決定力

②被xGOT-失点=セービング能力

さらにもう一つおまけのようなものだが、「被xG」と「被xGOT」の関係をどう考えるか。被xGに比べて被xGOTが大幅に高いとか、逆に低いとか…基本的にこれらの乖離は「運」で片づけていいものだと思っている。もちろん一般論として強いチームほどいいストライカーが揃ってるので、そういうチームとばかり対戦していれば被xGOTが高くなるのも当然なのだが…しかし試合数を重ねていろんなチームと対戦していけば両者は概ね似たような数値になっていくはず。試合数が少ない段階における差は運が良い、悪いで片づけるのが妥当だろう。そこで暫定的にこれを「失点運」と命名

③被xG-被xGOT=失点運

これを公式③とする。

 

 余談やがxGとxGOTの関係について、こう考えている。xGはシュートとセービングの部分を除いた「試合全体の流れ」でどちらのほうが優勢であったかを判断するのにより適しており、xGOTはシュートとセービングまで含めた「総合的なチーム力」を判断するのにより適している、と。例えば毎試合押し込まれてボコボコにシュートを打たれまくっているがGKのファインセーブ連発で勝ち点を拾ってるようなチームを見て、直感的にそのチームが強いと感じる人は少ないだろう(=xG)。しかし優れたGKがいるということはそのチームは失点しにくいということであり、実際には見た目の印象ほど弱いわけではない(=xGOT)。

ただしxGOT=枠内シュートは1試合における本数自体が少ないので、少ない試合数では運によって上振れ下振れする部分も大きい。データというのはサンプルが増えれば増えるほど正しい値に近づいていくものだからだ。

 

 さて、話を本題に戻して上述の公式を用いてグループリーグの結果を分析していこう。

まず全体の合計から。グループリーグ8組48試合で合計120ゴールが生まれた。それに対してxGOTは128.22、xGは126弱。xGと被xGに若干ズレがあるのはたぶん集計ミスや…。まぁほとんど誤差なので気にしないでほしい

やはりワールドカップに出てくる選手たちだけあって、レベルが高いのがうかがえる。xGOTとxGの差=決定力が+2.31。さらにxGOTと失点の差=セービング力は8.22と大きく上回っている。

シュート力もセービング力も平均より優れている。その中でも特にセービングは際立っており、48試合で8ゴールも減らした…と。こう考えるとGKというポジションの影響力の大きさを改めて感じさせられる。

各グループを個別に見てみよう。グループAはオランダの決定力&セービング力の高さが目を引く。決定力2.18は32チーム中1位。xGで見るとxG2.38、被xG2.71とごく平凡なチームなのだが、xGOTはなんと4.56まで跳ね上がり、失点も1のみ。端的に言えば流れの中では大したことないが、FWの決定力とGKのスーパーセーブで勝ち上がったチームだ。

グループBではイランがイングランドとの初戦で2-6と大敗したが、被xGOTは3試合合わせてもそれより低い5.50。正GKのベイランバンドが負傷退場したことが大きく響いたかもしれない。被xG-被xGOT=失点運を見てもイランは-1.32と大きくマイナスだ。イラン以外の3チームの決定力が合計で0.02しかない点から見ても、単純に運も悪かったと言えよう。

グループCは簡単だ。一言で言えば「メキシコが強かったがシュチェスニー個人の力でポーランドが突破した」グループ。xGと被xGの差、xGOTと被xGOTの差をそれぞれ比較すると、メキシコはxG+0.92、xGOT+0.84。対するポーランドxG-3.32、xGOT-3.50。明らかにメキシコのほうがいいチームなのだが、ポーランドのセービング力は脅威の4.11。全チームでぶっちぎりダントツの数字だ。2本のPKセーブも含めてシュチェスニーがスーパーセーブ連発で4点分も防いでしまった。まさに一人の力で決勝トーナメントへと導いたわけだ。

グループDのオーストラリアの失点運1.99は全チームトップ。そもそもオーストラリアを除く3チームの決定力が-3.06と決定力のないグループだった。フランス戦はぼろ負けしたが、チュニジア戦とデンマーク戦の2位争い直接対決ではわずかながらxGOTで上回り接戦を制した。大事な試合で決定力を発揮したオーストラリアが決勝トーナメント進出を果たした…と。

いよいよ日本のグループE。パっと見てもわかると思うが、xGでもxGOTでも日本はグループ突破にふさわしいチームではなかった…まして1位などね。単純に指標を見ればドイツ>スペイン>日本>コスタリカの順。ではなぜ実際にはそうならなかったのか?納得しない人も多いだろうが、「とにかくドイツの運が悪かった」と言うしかない。

順を追って見て行こう。まずドイツのxGは10.44、被xGは3.19、その差は7.25。流れで見ればダントツでベストのチームだったのは疑いの余地がない。では肝心の決定力、セービング力は?決定力は-0.91と確かに物足りないが、それでもなおxGOTは9.53(実際の得点数はたったの6)。セービング力も-0.18とほぼ期待値どおりで、ノイアーの仕事に特別問題があったわけでもない。ドイツ以外の3チームが合計2.22と高めの決定力を発揮したこともあり、失点運は-1.63。

つまりどういうことか。失点に関しては相手の決定力が高かったと割り切ることもできるが、とにかく自分たちの得点が入らなかった。ドイツの対戦相手のGKは被xGOT9.53に対し失点は6と3.53点も防いだわけだが、全試合で見ればこの3チームのセービング力は合計で0.13とごく平凡な数字だ。すなわち「大したセービング力があるわけでもないくせにドイツ戦のときだけ驚異的なセーブを連発した」。これが事実だ。それらの理由から、ワイは本来ドイツは大会でもTOP3に入る実力だったと見ている。

グループF。突破したモロッコクロアチアの2チームがともに1.90を超える高い失点運をマークしているが、それもそのはず。カナダとベルギーの決定力がひどい。クロアチア戦のルカクのアレは大きな話題となったのでみんな納得するだろう。特にひどいのがカナダで、決定力は全チームワーストの-2.76。セービング力も-1.50。さらに失点運も-1.63となぜか低い。カナダ以外の3チームの決定力は-0.25なのに。カナダ代表とは「流れの中では強いが決定力がなくGKのセービングもダメで、挙句運まで悪い」チームだった。

グループGは指標的にも勝つべきチームが順当に勝ち上がったグループ。特別言及するようなこともないのだが…セルビアの被xG、被xGOTはそれぞれコスタリカに次いでワースト2位。あれだけのタレントを抱えておきながらなぜこんなガバガバのチームになってしまうのか。

グループHは一般的には「韓国がウルグアイを抑えて突破し、下剋上を果たしたグループ」というふうに受け取られているかもしれないが、実は指標的にはxGでもxGOTでも韓国のほうがウルグアイを上回っている。今のウルグアイはもはやかつてのような強豪チームとは言えないかもしれない。