欧州「4大リーグ」か「5大リーグ」か。日本人だけが使っている造語について

 日本のサッカーコミュニティ、サッカーファンのあいだではよく「4大リーグ」「欧州4大リーグ」という言葉が使われる。これはイングランドプレミアリーグ、イタリアのセリエA、スペインのラリーガ、そしてドイツのブンデスリーガを「世界におけるトップレベルのリーグ」とみなした呼称だろう。しかし日本以外の国では同様の表現をするときに「欧州5大リーグ」という呼称が用いられることが圧倒的に多く、「4大リーグ」と呼ぶことはまずない。5大リーグの中身は上記の4つのリーグにフランスのリーグ1を加えたものだ。世界的に5大リーグという言葉が使われているにもかかわらず、なぜ日本のファンだけがそこからリーグ1を除外しようとするのだろうか?

 実は2010年頃までの日本では「4大リーグ」どころか「3大リーグ」という呼称のほうが多用されていた。当時はブンデスリーガも含まれていなかったのだ。ビッグクラブが複数存在するプレミアリーグ、ラリーガ、セリエAと比べて、バイエルンしかないブンデスリーガはワンランク下と扱われていたのだろう。リーグアンはまだパリSGが台頭してくる以前であり、メガクラブは存在しなかったのでなおさらである。つまりこの頃は日本においてブンデスリーガリーグアンは同じような評価であった。しかし香川真司を筆頭に内田篤人清武弘嗣乾貴士酒井宏樹酒井高徳など多数の日本人選手がドイツでプレーするようになり、さらにはドルトムントのCL準優勝なども相まってブンデスリーガの認知度、イメージが高まっていった結果、いつの間にか「4大リーグ」へと置き換えられていったのだ。いわば「日本人が多くいるからブンデスリーガもレベルが高いことにしよう!」という、手前勝手な理屈でしかないわけだ。

 

 そもそも「5大リーグ」というグループからリーグアンブンデスリーガを区別することは妥当なのだろうか?あるいは5大リーグという括り自体の妥当性は?リーグレベルを客観的に定義できる物差しはいくつか考えられるが、今回は「市場価値」の観点から検証してみよう。以下はhttps://www.transfermarkt.jp/に記載されている各リーグの平均市場価値を表にまとめたものだ(2023年2月16日時点)。

 平均値は一部の高額選手によって大きく引き上げられることがあり、特に上位クラブと下位クラブの格差が大きいリーグはその傾向も顕著であるため、リーグの特徴を掴みやすいように中央値も記載した。ただし平均値と違い中央値はサイト自体に表記されていないため、正確な値を求めるには選手一人ひとりを調べなければならず、ここでは便宜的に「各リーグ内で平均市場価値が真ん中のチーム」の数値を中央値として扱うことにした。また直感的にわかりやすいようにリーグ名ではなく国名で表記した。色分けはそのリーグが所属する大陸連盟を意味している。

 まず1位のイングランドプレミアリーグが頭一つ抜けているのが目につくだろう。2位のスペインラリーガと比べても平均値は約2倍、中央値は3倍弱。続くスペイン、ドイツブンデスリーガ、イタリアセリエAの2~4位は似たような数字となっている。これらと比べて5位のフランスリーグ1の市場価値は7~8割と言ったところで、確かに多少劣るようだ。しかしその下の6位ポルトガルや8位オランダとは3倍程度の差がある。つまり「4大リーグとリーグ1」の差よりも「5大リーグとそれ以外」の差のほうがはるかに大きいということだ。ちなみに欧州以外のリーグではブラジルが最も高く、次いでメキシコのリーガMXアメリカのMLSの順となっている。欧州のリーグに比べてリーグ内の格差が小さく、平均値と中央値に大きな差があるのはこの表の中ではサウジアラビアくらいだ。Jリーグと市場価値が近いのはUAEスウェーデンあたりか。

 より詳細に見ていこう。5大リーグの各クラブの平均市場価値は次の表のようになっている(単位:万ユーロ)。

 5大リーグとはいうものの、実態としてはやはりプレミアリーグが他に大きく差をつけている。実に20チーム中18チームが平均1000万ユーロ超え。他の4リーグで同様の条件を満たすのは上位数クラブだけだ。いわゆる「ビッグ6」には含まれないウェストハムアストンビラでさえ2000万ユーロ前後と、セリエAのトップレベルに匹敵する。ラリーガはマドリー&バルセロナの2強を筆頭に、中南米スペイン語圏のタレントが集まってくることもあり全体的に高水準だ。リーグ全体の平均市場価値ではブンデスリーガが3位だったが、バイエルンを除けばセリエAとの同順位同士の比較でほとんど後れを取っている。それだけバイエルンに一極集中したリーグということだろう。さらに格差大きいのがリーグ1であり、1位パリSGと2位レンヌとの差はおよそ3倍。中位以下はブンデスリーガと大差はない印象だが、20位アジャクシオは5大リーグ1部のチームで唯一100万ユーロを下回っている。

 こちらはJリーグ及び日本人選手が多くプレーしている欧州中堅リーグをまとめたものだ。Jリーグは上位と下位の差が2倍程度であり、10~30倍ほど差がある欧州各リーグと比べやはり格差は小さい。そして表を一瞥しただけでもわかるとおり、これらの欧州中堅リーグも下位チームの市場価値はJリーグチームとほとんど変わらないのだ。「日本人所属クラブの試合を見たけどJとレベルは変わらない」という意見も目にするが、市場価値の観点から見てもあながち間違いでもないのかもしれない。一方でアヤックスベンフィカポルトなどは1000万ユーロ前後の市場価値を誇り、5大リーグでも上位に相当する。欧州中堅リーグはJリーグレベルのチームとCLレベルのチームが混在しているリーグと言えよう。ただこうした一部の上位チームを除けばその他のチームの市場価値は5大リーグの末席であるリーグ1とも大きな差があり、むしろ5大リーグの2部レベルに近い。やはり「4大リーグ」ではなく「5大リーグ」と呼ばれるにはそれだけの理由がある、ということだ。

 ちなみに5大リーグ「以外」のクラブの平均市場価値ランキングは以下のとおり。

日本人選手は少ないが、トルコリーグ(スュペルリグ)の上位チームも複数ランクインしている。現在ナポリで大活躍している韓国代表DFキム・ミンジェも昨季はフェネルバフチェでプレーしていた。欧州以外ではブラジルの2チームが400万ユーロ超えを記録。さすがサッカー大国というところで、市場価値を見てもおそらくリーグ全体のレベルではポルトガルやオランダよりも高く、5大リーグに次ぐ存在だろう。日本人選手が6人在籍しているセルティックスコティッシュプレミアシップでは圧倒的な存在だが、イングランドプレミアリーグと比べると、市場価値最下位のボーンマスの半分にも満たない。リーグとしての格の違いを感じさせられる数字だ。