機械採点「Sofascore」で見る選手評価。知られざる「日本人最強選手」とは

 機械採点とは、客観的指標に基づいて選手の評価、採点を行っているサイト全般のことである。WhoScored、Sofascore、FotMobなどが有名だが、今回はSofascoreについて取り上げよう。

https://www.sofascore.com/

 Sofascoreでは各選手についてゴール、アシストの他にパス、キーパス、決定機創出、ドリブル、地上戦、空中戦、タックル、インターセプト…など、さまざまなイベントを集計し、逐次選手の採点を算出している。

例えばFAカップリバプール戦の三笘はゴール1、決定機創出1、キーパス1、ドリブル成功7/10、デュエル勝利9/13などのスタッツを記録し、採点8.0だった。Sofascoreによれば採点は全選手の平均値で6.86だそうだ。ただし平均値は一部の上位選手によって引き上げられており、最頻値(最もよく出る数値)は6.6だという。言うまでもなく8.0は素晴らしい評価だ。

 機械採点の利点は「主観に左右されない」という点に尽きる。通常選手が評価されるとき、その選手個人のパフォーマンスだけでなくチームの勝敗にも大きな影響を受けることが多い。人間とはヒステリックなもので、負けた試合でどれだけいいパフォーマンスをしたとしてもその選手が高評価を受けることはあまりないだろう。またゴールやアシストなど目に見えてわかりやすい結果にのみフォーカスしがちだが、実際にサッカーの試合に影響を及ぼす要素はそれだけではなく、そうした一つ一つのプレーに対し評価を与えることができるのも利点の一つだ。もちろん機械採点が完璧なわけではないが、普通に試合を見ているだけでは見過ごしやすい事象に対して「気づき」を与えてくれるのも確かだ。とはいえ各リーグの採点上位の選手を見てもらえばわかると思うが、おおむね現実においても高評価を受けてる選手たちが並んでおり、人間の主観と全く乖離しているわけでもない。メッシはSofascoreにおいても採点1位の常連である。

 さて、いくら採点を羅列されたところでSofascoreに馴染みがない人はどの数字がどのくらいの評価なのか、イマイチ掴みにくいだろう。ワイが長年観察・分析してきた経験からおおよその印象をまとめると、

 

7.5~…リーグ屈指のスター。ほぼ確実にリーグTOP5に入る。GKやDFはゴールやアシストで採点を稼ぐことが難しいため、大半は中盤より前の選手で占められる。

7.2~…誰が見ても文句なしで活躍している。DFであればリーグトップレベル。通常はチームに1人いるかどうかというところだが、首位独走しているような強豪では何人もいることもある。

7.0~…チーム内のエースクラス。安定したDF、ゴールやアシストは少ないがそれ以外のプレーは素晴らしいというアタッカー、逆にゴール以外の貢献は乏しいが年間15~20Gくらいする、というタイプのFWなどはこのくらいの数字になりやすい。

6.9~…レギュラーとして申し分なく、よくやっているというレベル。日本人海外組が「躍動」「存在感発揮」「現地紙称賛」などと表現されるのはこのラインくらいから

6.8~…平均的なレギュラー選手という印象。一部の強豪を除けば、チームの中では上半分に入る。少なくとも弱点とはみなされない。

6.7~…レギュラーとベンチとの狭間レベルの選手。途中出場がほとんどであるなら仕方ないし、大半をスタメンとして出ているのならやや物足りない、という数字。

6.6~…戦力としてあまり期待できない。このクラスの選手がレギュラーにいるようでは厳しい。なお2022年の長友はJリーグで30試合中25試合に先発し、6.62であった。

 

という感じである。上記は1試合の採点ではなく、あくまで「シーズンを通して」の平均採点についての話だ。また途中出場の選手はプレー時間が限られているので指標を積み重ねにくく、高採点を得ることは難しい。より正確に選手の実力を見抜くには採点だけを見るのでなく、出場数、先発と途中出場との比率、そのチームの相対的な強さなどを複合的に考慮することが必要だ。

 では日本人海外組選手の採点はどのようになっているのだろうか?Sofascoreは比較的近年に開始されたサービスであり、あまり古いデータは得られない。リーグによって採点がつけられるようになった開始時期に差はあるが、5大リーグは15/16シーズンから、Jリーグは2017シーズンから、ベルギーリーグは20/21シーズンから、といった具合だ。20/21シーズン、21/22シーズンの主な日本人海外組選手の採点を一覧にまとめたので早速見てみよう。

20/21シーズン

 

21/22シーズン

 

当該シーズンの出場試合数や出場時間が極端に少なかった選手は載せていない。まず目につくのは森岡の採点の高さだろう。特に20/21シーズンの7.65はなんとベルギーリーグ全体1位である。元々ベルギーで活躍していた選手でありハリルホジッチ時代までは代表に呼ばれることもあったが、2018年の森保就任以降は一度も招集されていない。しかし森岡が本当に覚醒したのは2019年のシャルルロワ移籍以降なのだ。それまでは主にトップ下でプレーすることが多かったが、移籍を機にアンカーにコンバート。すると攻撃的な選手とは思えないほどの驚異的な守備指標を記録し、さらにはパスでも目覚ましいスタッツを残すなど攻守両面で獅子奮迅の活躍を見せるようになった。翌シーズンからはアンカー以外にもIH、ボランチ、CMF、トップ下、左WGなど2列目~3列目の様々なポジションで起用されるようになるが相変わらずトップレベルのパフォーマンスを維持。先述したように20/21シーズンはリーグ全体1位、21/22シーズンも全体5位の採点をマークした。

  より具体的なスタッツを見てみよう。19/20シーズンはまだベルギーリーグの詳細な指標が記録されていないので割愛する。まずは守備面。20/21シーズンの森岡の1試合あたりのインターセプト成功数は2.3回、タックル成功数は3.8回、さらにデュエル勝利数は7.1回である(勝率56%)。リーグの違いはあれど、これらの各指標は同シーズンの「デュエル王」遠藤航をも上回っている(インターセプト1.5回、タックル2.0回、デュエル6.8回(52%))。あのエンゴロ・カンテとほぼ互角の数字である、と言えばそのすごさが伝わるだろうか(レスター時代の指標には及ばないが、チェルシー移籍後の16/17、17/18シーズンには匹敵する)。そして攻撃面では20/21シーズンの1試合あたりキーパスは2.3本。これは同シーズンに15アシストを記録した鎌田大地(1.8本)より多く、今シーズンの欧州1部日本人にも2.0を超えている選手は一人もいない。さらに目を見張るのがロングパス(成功数5.7本、成功率68%)で、この本数はおそらくなかなかお目にかかれないレベルの数字である。パスの名手と言われる選手たちと比較してみると、2018年のイニエスタJリーグで7.73と無双レベルの採点を記録しているが、ロングパス成功数は4.4本(66%)。モドリッチも毎シーズンこの数字には及ばない。明確に同等以上の成功数を記録し続けているのはクロースくらいだろう。21/22シーズンは2列目で起用される機会が増えたので前年より守備指標は落としているが、それでもインターセプト1.0回、タックル2.6回と優秀な数字だ。攻撃面ではキーパス2.0本、決定機創出17回(凄まじい)、アシスト12を記録している。

 パスの配給役としても、中盤の守備のかなめとしても申し分ない活躍を披露していたことが指標からもはっきりうかがえる。間違いなくジュピラープロリーグ屈指の選手であり、ベルギーで同等レベルの存在感を発揮した日本人選手は伊東純也くらいしかいない。言うなれば「日本人最強MF」の1人であることも疑いの余地はなく、この選手が一度も代表に呼ばれずワールドカップにも出場できなかったのは、日本代表にとって痛恨の極みでしかない。森岡が一向に日本代表に選出されないことは、ベルギー現地ではもはやミステリーの一種となっていた。日本代表がブラジルレベルのタレント軍団ならばいざ知らず、実際には森岡よりもリーグでの活躍度がはるかに劣る選手たちがベルギーから何人も呼ばれていたのだから。

22/23シーズン

 

 まだシーズン途中なので一部選手のみ抜粋したが、22/23シーズンの採点は2月24日時点でこのようになっている。森岡は過去2年に比べると採点を落としているが、これは昨年10月にフェリス・マッズがシャルルロワの監督に就任して以降序列が低下し、ベンチスタートが大半になっているため。それまでは7.30前後の採点を維持していた。森岡も今年4月には32歳になり、次回2026W杯時には35歳。年齢的には下降線の時期でありおそらくピークは過ぎているだろう。日本サッカー界はベルギートップの選手を擁していながら、その全盛期を無為に浪費してしまったのだ。まったく嘆かわしいと言うほかない。

 森保によって見過ごされた選手は森岡だけではない。旗手・古橋のセルティック組の落選は日本でも話題となったが、真に選ばれるべきだったのは菅原である。オランダエールディヴィジの強豪AZアルクマールで右SBを中心に活躍し、21/22シーズンの採点は7.08。今シーズンも怪我で出遅れながら7.04と変わらず好調を維持している。ちなみにワールドカップ本大会に選出された右SBの酒井宏樹、山根の採点はどうであったか?2022年のJリーグで酒井は6.79、山根は7.00。採点が全てではないとはいえ、Jリーグよりもレベルの高いオランダで彼らと同等以上の数字を残していた菅原が代表に選ばれたとしてもおかしいことではないだろう。「ワールドカップ直前の親善試合で招集されたのに怪我をしていた本人が悪い」という声も散見されるが、菅原を呼ぶタイミングは何もそこしかなかったわけではない。活躍していたのはそのずっと前からだ。結局は新しい選手を招集することに常に消極的な森保の決断力のなさが招いた事態である。

 その他の選手にも目を向けてみよう。中村航輔の採点7.25は現在ポルトガルリーグ全体12位であり、GKでは7.26のリカルド・バティスタに次いで僅差の2位である。特に1月7日のベンフィカ戦では11本のセーブをマークし、自身のPK献上があったにも関わらず9.3という異次元の採点を記録した。欧州リーグでこれだけ高水準の平均採点を日本人GKが獲得したのは中村が初めてだ。間違いなく代表入りに相応しいと言えるだろう。

アペルカンプ真大は日本のサッカーファンからの知名度は低いだろうが、日本代表入りの資格を有する日本国籍の選手だ。今季はすでに5ゴール5アシストをマークし、1試合あたりのキーパス2.2本、決定機創出7回。所属クラブのデュッセルドルフでは田中碧よりもはるかに活躍しておりキープレイヤーとして存在感を放っている。

ベンチ出場が大半の冨安は仕方ないとして、意外と低調なのが堂安だ。ほとんどの試合で先発出場しているものの、ここまでの採点6.80はビーレフェルト時代に記録した6.92を下回っている。1試合あたり1.8本のシュートを放っているがゴールは2、決定率5.3%と芳しくない。キーパスも0.9本と平凡な数字だ。「違いを見せられている」という状況ではないので、今後何かのきっかけがあればベンチに降格したとしてもおかしくはない水準である。

 

 Sofascoreの概要については以上。これらを使って分析できることはまだまだたくさんあるので、次回以降も「Sofascoreで高採点を獲得したアジア人選手」など関連記事を更新していく予定である。何かリクエストがあればコメントを寄せてほしい。